2026年10月3日に実施されたラトビア議会選挙(ザエイマ100議席)において、中道派の「統一リスト」が得票率35.3%を獲得し、42議席を制した。アンドリス・カルベルス首相が率いる同党の勝利は、1991年の独立以来、単一政党が記録した最高得票率であり、親ウクライナ路線を掲げる政権が信任された形だ。投票率は51.8%と独立以来最低を記録した。ドイツの『フランクフルター・アルゲマイネ』紙は、この結果を「トランプ的ポピュリズムに対する勝利」と位置づけ、右派ポピュリスト政党「ラトビア・ファースト」が得票率を倍増させ13.1%で第2党となった事実を詳細に報じた。一方、ドイツ放送(DW)はカルベルス首相の経歴(元自動車整備士、経済学者、実業家、アマチュアラリードライバー)と、2025年5月にウクライナ軍ドローンの領空侵犯を契機に前首相エヴィカ・シリニャが辞任して以来の政権運営に焦点を当てた。欧州版ポリティコは連立政権樹立の議会算术とEU対ロ制裁政策の文脈を重視し、『キエフ・インディペンデント』はウクライナとラトビアの安保連帯と軍事動向を前面に押し出した。
選挙の直接の契機となったのは、2026年春にベラルーシ経由でラトビア領空に侵入した爆発物搭載ドローンの一連の事件である。これらのドローンの多くはウクライナ製であり、ロシアへの攻撃経路中に航路を逸脱したとみられている。モスクワはバルト三国がウクライナに領空を攻撃用に提供していると非難し、特にラトビアへの報復攻撃を仄めかした。カルベルス首相はこの危機を受け、情報機関の調整強化を主導し、国防費をGDPの5%超へ引き上げる方針を公約した。ラトビアはすでに国防費をGDP比5%まで引き上げており、NATO加盟国中最上位の水準にある。ドイツは選挙期間中にラトビアの要請を受け、ユーロファイター戦闘機4機を同国領空防衛に展開した。この軍事展開は、バルト海沿岸諸国が直面するハイブリッド脅威への西側諸国の対応を象徴するものとして、DWとポリティコEU版の双方が言及している。
各メディアの論調には明確な差異が認められる。ドイツのFAZ紙とDWは、ラトビア国内の政治力学──特に「トランプ的」ポピュリズムの台頭と、前首相シリニャ政権崩壊の経緯──を重視し、カルベルス首相の個人的指導力を「ラトビア政治における現象」と評した政治学者イヴェタ・カゾカ氏の発言を引用した。ポリティコEU版は、EU対ロ制裁リストからロシア富豪アリシェル・ウスマノフとミハイル・フリドマンを除外する協議にラトビアが当初反対し最終的に棄権した事実、およびロシアとベラルーシが移民問題を「道具化」したとされる点を報じた。『キエフ・インディペンデント』は、ゼレンスキー大統領がカルベルス首相の勝利を祝賀した声明を引用するとともに、ウクライナ保安庁(SBU)アルファ特殊作戦部隊がロシア空軍基地のSu-35戦闘機とSu-34戦闘爆撃機を攻撃した事実、およびゼレンスキー大統領が「ロシアのプーチン大統領がウクライナ民間人標的への広範な攻撃を認める『新ドクトリン』を発令したとウクライナ情報機関が文書を入手したと主張した」ことを報じた。このプーチン「新ドクトリン」に関する記述は、ソース記事上、ゼレンスキー大統領の発言として伝えられた情報であり、事実として確認されたものではない。
欧州安全保障の広域的文脈では、トランプ米政権がクレムリンとの和平交渉を進めており、その協議にはロシア石油会社ルコイルの資産に関する数十億ドル規模の取引が含まれているとニューヨーク・タイムズ紙が10月3日に報じた。また、国連人権高等弁務官事務所のフォールカー・テュルク高等弁務官は10月2日の人権理事会で、2026年1〜8月にウクライナで民間人の死傷者が週平均400人を超え、前年同期比で55%増加したと述べた。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は経済相カテリーナ・ライヒェと独防衛・エネルギー分野の企業幹部10名を伴いキエウを訪問した。ラトビアの選挙結果は、NATO東側最前線における親ウクライナ・親EU路線の継続を意味し、バルト海沿岸の安全保障構造がロシアのハイブリッド戦と米露交渉の動向に左右され続けることを示している。