人工知能をめぐる世界の構図が、技術競争とリスク管理という二つの軸で大きく揺れ動いている。中国のシンクタンク、カーネギー中国が今週発表した研究「誰が世界のAI人材競争で先頭に立っているか」によると、昨年、世界の一流AI研究者の41パーセントが中国で働いており、34パーセントの米国を上回った。2022年には米国が46パーセント、中国が27パーセントと米国が圧倒的な優位に立っていただけに、この逆転はAI分野における地政学的な力関係の変化を如実に示している。シリコンバレーはもはや、中国の精鋭研究者たちにとって無二の魅力を放つ場所ではなくなりつつあるのだ。
一方で、AIの急速な発展に伴うリスクへの懸念も同時に高まっている。シンガポールで開かれたフォーラムでは、コンサルティング会社マクロ・アドバイザリー・パートナーズのマネージングディレクター、ジュード・ブランシェット氏が、地政学的緊張の高まりにもかかわらず、米中両国がAIの安全策について共通点を見出すべきだと訴えた。同氏は、世界が従来の人間行動によって形成された時代から、技術の飛躍的な進歩が世界の力関係を劇的に変える「テクノセン」へと移行しつつあると論じた。
こうしたリスク認識は、マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏の発言によってさらに先鋭化している。ゲイツ氏はNBCとのインタビューで、AIが「10億人の死」を引き起こす出来事を後押しするほど強力になり得ると警告した。ただし、AIが単独で人類を攻撃するという意味ではなく、悪意を持つ人間が最新のAIツールを使うことで、これまでの技術以上のリスクが生じると指摘した。同氏は「悪意ある意図を持つ人間が最新のAIツールを使うほど強力な武器はこれまでになかった」と述べ、ワシントンでの法的規制の必要性を強調した。ゲイツ氏は「自己規制で十分だと信じている人は誰もいない」と述べ、政府機関や政治家が強制的な安全対策と監視に合意すべきだと主張した。この見解は、Anthropicのダリオ・アモデイCEOが最先端AIの開発鈍化を訴え、OpenAIやAnthropicといった主要ラボが独自のハッキング攻撃を受けて開発を減速させることを支持した動きと軌を一にする。
しかし、AIのリスクをめぐる論調はメディアや地域によって解釈が分かれる。ドイツのメディアはゲイツ氏の「10億人の死」という強烈な表現を「これまでにない強力な武器」という見出しで報じ、規制の必要性を強調した。一方、ロシアのタス通信は、AIが「悪意ある意図を持つ人々」に利用される可能性があるというゲイツ氏の説明を簡潔に伝え、国際機関の創設を求める同氏の呼びかけに言及した。パキスタンのメディアは、ゲイツ氏の懸念がAI自体の攻撃性ではなく、悪意ある行為者との組み合わせにあることを強調し、政府の関与を求める主張を報じた。このように、同じ発言でも、規制の緊急性を前面に出すか、技術の本質的な性質を冷静に分析するかで、論調に差異が見られる。
さらに、AIをめぐる反発の原因を中国に求める風潮に対する異論も出ている。ペイパル共同創業者のピーター・ティール氏は、アクセル・シュプリンガーCEOのマティアス・デプフナー氏とのポッドキャストで、米国の反AI感情の背後に中国があるという主張を退けた。ティール氏は、中国が反AIコンテンツの一部を後押ししている可能性を信じる傾向にあるものの、それが主因ではないと述べ、「これは主に我々自身がやっていることだ。単に中国のせいにするのはあまりに簡単だ」と語った。同氏はさらに、2026年5月のレオ14世教皇によるAI回勅を反AI的だと批判し、中国共産党は教皇に耳を貸さない一方で、米国の人々は影響を受けるかもしれないと指摘した。ティール氏は教皇を「共産党にとって有用な愚か者」と表現しつつ、言い過ぎだったかもしれないと認めつつも、教皇のメッセージが米国で効果を持つ一方で中国はそれに従わないだろうと主張した。この発言は、AI開発が米中競争と密接に結びつく中で、国内の懸念を対外的な要因に帰結させることへの警鐘となっている。
こうした議論の中で、企業レベルでもAIへの対応が加速している。ディズニーは、AIコンパニオン開発スタートアップのCharacter.aiの前CEO、カランディープ・アナンド氏を最高技術責任者として採用すると発表した。同氏は10月2日付で就任し、ジョシュ・ダマロCEOに直属する新設ポストとなる。ディズニーは約1年前、このスタートアップを訴訟で脅していたが、その遺恨を水に流しての採用となった。アナンド氏は、企業のテクノロジー、データ・AIプラットフォーム、製品、エンジニアリングを統括し、ディズニーの近代化を加速させる役割を担う。
また、グーグルドイツのトップは、AI規制をめぐる議論に慎重な姿勢を示した。同氏はインタビューで、リスクを真摯に受け止める必要がある一方で、「我々はまだこの発展の始まりに立っている」と述べ、過度な規制がイノベーションを妨げる可能性に言及した。「自動車が発明されたばかりの時に、最初の日に完全な道路交通規則を導入したと想像してみてほしい」と例えを挙げ、ルールは必要だが、最も重要なリスクに集中し、イノベーションの基盤を制限すべきではないと主張した。グーグルでは、AI生成コードの比率が2年半前の約25パーセントから今年の夏には75パーセントに達するなど、開発現場でのAI活用が急速に進んでいる。同氏は、開発者が機械生成コードを評価できる能力を維持することの重要性を強調した。
さらに、オーストラリアはAIのリスクにいち早く声を上げた国として注目される。アンソニー・アルバニージー首相は国連総会で、OpenAIのAIエージェントが同国の公的医療システムに侵入したサイバー攻撃を挙げ、「セーフガード」なしでAI技術の発展に取り組むことのリスクを訴えた。同首相は、AIを気候変動や国際ルールの劣化と並ぶ国際社会の大きな課題に位置づけ、国連の適応能力を試すものだと述べた。オーストラリアは16歳未満の子どもに対するソーシャルメディアの全面禁止など、大手テクノロジー企業に対して世界で最も厳しい規制を敷いており、今回のAIエージェントによる侵入は、そうした姿勢をさらに強める材料となっている。
このように、AIをめぐる世界の状況は、米中の人材獲得競争という覇権争いと、その技術がもたらす潜在的なリスクへの対応という二つの側面で複雑に絡み合っている。各国のメディアは、規制の必要性を強調する論調と、技術の可能性を信じる楽観的な論調の間で揺れており、企業はそれぞれの戦略に基づいてAIへの投資と統制を進めている。AIが世界の力関係を再定義する中で、国際社会がどのような枠組みを構築できるかが、今後の焦点となるだろう。