サウジアラビアは、イラクから発射されたドローン攻撃を受け、紅海沿岸のヤンブー港と東部油田を結ぶ全長1200キロの東西パイプライン(ペトロライン)を一時停止した。リヤドとメディナ両地域で発生した攻撃を受けた予防措置であり、サウジ当局は負傷者が出たと発表した。ロイター通信によると、このパイプラインの輸送能力は日量400万〜500万バレルで、世界供給量の約4〜5%に相当する。
パイプライン停止の背景には、二つの圧力がサウジに同時にのしかかっている。一つはイラクのイラン系民兵によるドローン攻撃であり、もう一つはフーシ派の紅海沿岸での進撃である。フーシ派はバブ・エル・マンデブ海峡に近いマユン島(ペリム島)を制圧し、紅海とアデン湾を結ぶ重要航路への支配を強めた。フーシ派報道官ヤヒヤ・サリーは、サウジ南部のシャルーラ軍事基地を弾道ミサイルとドローンで攻撃したと主張し、イエメンへの攻撃が続く限り、より大規模な攻撃をサウジ深部に加えると警告した。
サウジは世界最大の原油輸出国であり、ペトロラインと紅海航路の寸断は世界の石油フローを直接脅かす。サウジはこのパイプラインで日量約400万バレルを紅海のヤンブー港へ迂回輸送してきたが、停止によりヤンブーの在庫は輸出を維持できるのは5〜7日分しかないと、業界関係者が指摘する。国際エネルギー機関(IEA)によると、サウジの原油生産量は8月に日量620万バレルまで低下し、2月の1090万バレルから激減した。世界の石油供給は今年、日量570万バレル(約6%)減少する見通しだ。
この事態を受け、パキスタンのシャバズ・シャリフ首相はサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と電話会談し、フーシ派の攻撃に対する「完全な連帯」を表明した。シャリフ首相は、フーシ派の行動が地域の平和と安全を脅かし、世界経済とエネルギー供給をさらに混乱させると警告した。両首脳は緊密な連絡を維持し、早期の会談を望むことで一致した。また、パキスタン、サウジ、トルコが8月7日に締結した相互防衛協定への関心も再燃しているが、パキスタン外務省は現時点で軍事対応は協議されていないと説明した。
イラク側では、バグダッドが攻撃の発射地点とされるイラン国境に近いミーサーン県の司令官を更迭し、国境検問所の運用を再編した。イラク治安部隊は、攻撃に使われたとされるドローン発射台を発見・押収したと発表した。バグダッドはサウジにイラクへの報復を行わないよう要請しており、イラク領土が代理戦争の発射台となることを防ぐ「予防的主権」の原則を強調した。
フーシ派は9月3日からイエメン西部での大規模攻勢を開始し、サウジ派部隊を約5400平方キロメートルから一掃した。紅海沿岸の港湾都市モカやバブ・エル・マンデブ海峡の要衝ペリム島を制圧し、7つの連合軍師団が数日で崩壊したとされる。国際移住機関(IOM)によると、今月初めからの戦闘で8万5000人以上が避難し、2000人以上のイエメン人がバブ・エル・マンデブ海峡を渡ってジブチに到達した。サウジは週末にイエメンへの空爆を少なくとも129回実施し、フーシ派側は過去24時間で58回の空爆が6県に及んだと発表した。
米国とサウジの関係にも変化が生じている。サウジのムハンマド皇太子はトランプ大統領にフーシ派への空爆を2度要請したが、トランプ大統領はこれを拒否し、米国は情報支援と目標特定支援に限定したと報じられた。米中央軍司令官ブラッド・クーパー提督がサウジを訪問し緊急協議を行ったが、リヤドが求めた軍事支援は実現しなかった。サウジ国内には100人以上の米軍関係者が駐留し、目標データを提供しているが、前線の崩壊を食い止めるには至っていない。
この一連の混乱は、世界のエネルギー市場に深刻な影響を及ぼす。ホルムズ海峡の封鎖により湾岸産原油の主要輸送路が機能不全に陥る中、ペトロラインはサウジにとって生命線となっていた。その生命線が途絶えたことで、原油価格の高騰が世界的なインフレを加速させ、米国債利回りは2008年の金融危機以来の高水準に達した。パイプラインの復旧が数日で実現するか、数週間単位の長期化となるかが、世界の原油市場を左右する最大の焦点となる。紅海はもはや中東の水路にとどまらず、アフリカ大陸の貿易ルートやスエズ運河回廊にも波及する地域紛争の拡大アリーナと化している。