サウジアラビア、パキスタン、トルコの3カ国は8月7日、メッカのアル・サファ宮殿で「メッカ共同防衛協定」に調印した。協定は、いずれか一国に対する武力攻撃を全締約国への攻撃とみなす相互防衛条項を含み、NATO憲章第5条に相当する内容とされる。調印式には、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、パキスタンのシェバズ・シャリフ首相が出席した。
この協定は、米国・イスラエルとイランの戦争が始まって5か月以上が経過し、フーシ派の攻撃やホルムズ海峡・紅海での航行障害が続く中で締結された。サウジアラビアはイランとその同盟勢力から直接攻撃を受けており、米国の安全保障上のコミットメントに対する信頼が低下する中で、自国の防衛能力強化と同盟網の構築を進めている。協定は特定の国を名指しせず、エルドアン大統領は「いかなる国も標的にしない」と述べ、友好国の参加に開放されていると強調した。
パキスタンのカワジャ・アシフ国防相は、協定調印の翌日に自国メディアに対し、「イスラエルはイスラム世界全体にとっての脅威であり、これに対抗する統一軍事戦線が必要だ」と述べた。アシフ国防相はイスラエルを「バルフォア宣言に基づく非合法国家」と非難し、パレスチナ問題が恒久的に解決されるまでイスラム世界は団結すべきだと主張した。また、イスラエルの政権交代後も政策は変わらないとの見方を示した。
イスラム協力機構(OIC)のヒセイン・ブラヒム・タハ事務総長は、この協定を「地域安全保障にとって重要な戦略的ステップ」と歓迎した。パキスタンのアクサン・イクバル計画相は「メッカ合意は歴史的な節目であり、地域の平和と安定を促進するものだ」と述べ、協定が特定の国を標的にするものではないと強調した。パキスタン人民党(PPP)のビラワル・ブット・ザルダリ議長も「歴史的な進展であり、防衛能力をさらに強化する」と評価した。
アナリストの間では、この協定の実効性を巡って見方が分かれている。ワシントンの中東政策評議会のカムラン・ボハリ氏は「現段階では実際の運用上の変化は限定的であり、戦略的なシグナルだ」と指摘する。一方、サウジアラビアの研究者アジズ・アルガシアン氏は「サウジ中心の抑止力であり、米国の安全保障の保証に依存するのではなく、自国の能力開発と同盟構築を目指すものだ」と分析する。協定は、サウジアラビアの資本、トルコの防衛産業技術、パキスタンの核戦力と兵力を組み合わせたものとみられている。
イランからは初期反応として、国会国家安全保障・外交政策委員会のメンバーであるエブラヒム・レザイ氏が「トルコとパキスタンとの紙上の合意はサウジアラビアに安全保障をもたらさない」と社交メディアで述べた。アナリストは、イランが外交と抑止の両方を追求する可能性が高いとみている。また、パキスタンが米国とイランの間の調停役を務めてきた経緯から、今回の協定がその仲介役としての信頼性を損なう可能性も指摘されている。
イスラエルはこの協定に対し公式な反応を示していないが、10月27日に予定される総選挙を控え、ネタニヤフ首相とその政敵たちがこの新たな安全保障の枠組みを選挙戦でどのように利用するかが注目される。元首相のナフタリ・ベネット氏は2月に「核保有国パキスタンとの敵対的なスンニ派枢軸」の形成に警告を発しており、今回の協定はその懸念を裏付けるものとなった。
この協定は、中東の安全保障秩序が米国中心の枠組みから地域主導の枠組みへと移行する兆候とみられる。パキスタンの元大使アシフ・ドゥッラニ氏は「新たな地域安全保障アーキテクチャーの最初の具体的な構成要素だ」と評し、将来的にエジプトやカタール、クウェートなどが加わる可能性も指摘されている。トルコのハカン・フィダン外相は、エジプトが技術的問題の解決後、同盟に加わる可能性があると述べた。