欧州連合(EU)の外相理事会は10月12日、ロシアの軍事産業に関与する企業・個人を対象に、過去最大規模となる制裁リストの拡大を承認した。新たに対象へ加わったのは1,569の企業と個人であり、EUの対ロ制裁リスト全体では約4,600の主体に達する。EUの発表によれば、新規対象の半数以上がウクライナ攻撃に使われる弾道ミサイルの製造工程に関係し、半導体、電気回路、レーダー、航空部品、航法システム、爆薬、弾薬の製造業者が含まれる。EU理事会のデータは、今回制裁された企業の年間売上高が少なくとも200億ユーロ、雇用が25万人超であると示す。制裁は渡航制限、資産凍結、資金・経済資源の提供禁止を含み、効力は3年間続く。EUのカジャ・カラス外務・安全保障政策上級代表は「ロシアが戦争を始めたことを忘れてはならない」と述べ、圧力を強める以外に戦争を終わらせる道はないと主張した。
この決定は、ドナルド・トランプ米大統領がロシアのウラジーミル・プーチン大統領とまとめたディーゼル供給協定と、それに続く一方的な「エネルギー停戦」発表への直接的な反発として位置づけられる。トランプは10月9日、ロシアが米国と世界市場へ「直ちに」30万トン超のディーゼルを供給し、11月に50万トン、さらに短期間で100万トン、その後300万トンを追加供給すると発表した。ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相は国営通信タス通信に対しこの数字を確認し、将来的に月間300万トンに達する可能性があると述べた。米財務省はロシア産ディーゼルに対する制裁を来年4月まで停止する許可を即時に発出した。プーチン大統領はトランプとの電話協議後、ロシア産石油・石油製品を米国と世界市場へ供給する用意があるとし、「世界経済全体に良い影響を与える」との認識を示した。トランプは10月12日、自身のSNSで「私はアメリカ国民のために正しい選択をした。常にアメリカ・ファーストだ」と擁護し、EUがロシアへエネルギー代として2,500億ドルを支払ったと主張して報道機関を非難した。
一方、トランプが10月11日にトゥルース・ソーシャル上で「ロシアとウクライナ間の戦争でエネルギー停戦が即時発効した。両当事者が合意した」と発表した停戦は、当事者であるウクライナとロシアの双方から確認されていない。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、停戦は「私にとってニュースだった」と述べ、報道を通じて知ったと説明した。ゼレンスキー大統領はワルシャワ安全保障フォーラムで、トランプの発表後にロシアがハルキウの火力発電所、ガス生産施設、民間ガソリンスタンドを含む6つのエネルギー施設を攻撃し、全国で33人が負傷したと非難した。「プーチンはトゥルース・ソーシャルを読まないことが明らかだ」と述べ、ロシアがエネルギー停戦に合意しないなら冬に反撃すると警告した。ロシア大統領報道官のドミトリー・ペスコフは「接触は続いている。言うべきことがあれば必ず知らせる」と述べ、停戦が製油所のみを対象とするかについては言及を避けた。ペスコフはゼレンスキーが提案した60日間の停戦を拒否し、プーチン大統領は選挙当日のみ攻撃を控える命令を出せるが、60日間は「再編成と傷の回復、戦争継続のため」に必要だと主張した。セルゲイ・ラブロフ外相は「彼(ゼレンスキー)は休息に値しない」と述べ、提案を一蹴した。
米国内では超党派の反発が広がる。スーザン・コリンズ、リサ・マークスキー、トム・ティリス、ジョン・カーティスの共和党4議員と、ジーン・シャヒーン、リチャード・ブルーメンソールの民主党2議員ら7議員が、ロシア産ディーゼル輸入計画を「違法」とする声明を出した。2022年に議会がロシア産エネルギー輸入を禁じたこと、政権が議会に協議も説明もしていないことを根拠とする。「米国はロシアがウクライナ民間人を殺し続ける限りプーチンに金融的な救命索を渡すべきではない。政権は直ちに方針を改めるべきだ」と訴えた。ホワイトハウスは当初この批判に反応しなかった。分析筋は、ロシアが約束した30万トンは米国の1日当たりディーゼル消費約360万バレル(約50万トン相当)の半分程度にすぎず、価格への影響は「ゼロかほぼゼロ」だと指摘する。国際エネルギー機関(IEA)はロシアのディーゼル生産量が約30%減少したと推計する。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア産ディーゼルの供給量は世界の月間消費約1億2,000万トンに比べて取るに足らないとし、「米国はなぜウクライナとディーゼル協定を結ばないのか」と問いかけた。
各国メディアの論調には明確な差がある。スペインのエル・パイス、ドイツのDWとフランクフルター・アルゲマイネ、フランスのフランス24、EU専門のポリティコは、EUの記録的制裁拡大と欧州首脳のトランプ批判を前面に置く。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は「米国とロシアのディーゼル輸出協定に留意する。ドイツと欧州にとって、そのような決定は論外だ」と述べ、ロシアは圧力の下でのみ真剣に交渉すると主張した。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は「西側全体」に対し、支配のために戦うプーチン政権へより強硬に対応するよう呼びかけた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「過去48時間、ロシア側からのエネルギー停戦は確認していない」と述べた。リトアニアのケーストゥティス・ブドリス外相は「この協定は石油製品価格にも大西洋共同体の結束にも役立たない。欧州のやり方ではない」と断じ、ラトビアのバイバ・ブラジェ外相は「ロシアへの圧力、制裁、ウクライナ支援、ロシアの孤立が平和への道だ」と述べた。アイルランドのヘレン・マキンティ外相は協定を「憂慮すべきもの」と呼び、ドイツのグンター・クリヒバウム欧州担当相はロシア産エネルギーに費やされる1ドルがキーウ攻撃に使われる武器の購入を支えると指摘した。エストニアのマルグス・ツァフクナ外相は、協定が燃料価格を「実際に変えることはない」とし、米国の国内事情に強く結びついていると述べた。英国のスティーブン・ドゥーティー国務相はロシア産エネルギーの購入に追随する計画はないと明言した。
米国メディアの論調は国内政治と超党派批判に集中する。ナショナル・レビューは「トランプのプーチンとのディーゼル協定は権力の重大な濫用であり、米国に経済的利益をもたらさず、プーチンにとっては完全なクーデターだ」と断じた。NPRは、トランプがウクライナに戦時選挙を促しゼレンスキー交代を求める一方、燃料価格高騰を選挙戦の争点としている構図を強調する。ガーディアンは、協定が米国の運転者や企業に「意味のある」影響を与えることはほとんどないというエネルギー・外交政策分析者の予測を伝えた。中国のサウスチャイナ・モーニング・ポストは、北京が今回の米ロ取引を「取引的」と見なし、トランプが再び方針を変える可能性を踏まえて長期的影響を見極めようとしていると報じた。北京外国語大学の崔洪建氏は、ウクライナと欧州がこれを緊急の「つなぎ」と見なし、制裁の「ドミノ効果の第一歩」となることを望んでいないとし、中国の対応は「状況がどちらへ進むかを見守る」ことだと述べた。香港大学の張弛氏は協定を「自己矛盾的」と評し、米国のアプローチの「選択的」な性格を反映すると指摘した。南京大学の馬博氏は、中間選挙後に調整される可能性のある「一度限りの申し出」だとの見方を示した。ウクライナのキーウ・インディペンデントは、ロシアが停戦発表直後にハルキウの発電所を攻撃し、複数地域でエネルギーインフラへの攻撃を続けたと強調し、ロシア国営タス通信はペスコフ報道官の「接触は続いている」との発言のみを伝えた。ロシアの主張とウクライナ・欧州の認識が真っ向から割れる点が浮き彫りとなる。
市場と戦況への影響は深刻である。10月12日のブレント原油は、イエメンのフーシ派によるサウジアラビア攻撃を受けて1バレル約103〜107ドルまで上昇し、米国産WTIは約91〜93ドルで取引された。サクソUKのニール・ウィルソン氏は「米国のロシア産ディーゼル購入協定は大海の一滴にすぎない」と述べた。主要7カ国(G7)は4カ月間で戦略備蓄から最大1億バレルを放出することに合意した。国際通貨基金(IMF)は、ウクライナが来年に300億〜350億ドルの資金不足に直面すると推計する。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は戦争が「新たな、より暗い段階」に入ったと述べ、10月16日の欧州理事会でウクライナ支援が中心議題となる見通しだ。EU首脳らは冬を前に、ロシアによるエネルギーインフラ攻撃が続く中で圧力を緩めるのではなく強めるべきだとの立場をそろえた。11月3日の中間選挙を控え、燃料価格とウクライナ政策が米国の政治と欧州の安全保障を同時に揺さぶる構図となっている。