2026年10月、スペインと米国で相次いで実施される選挙の根底に、住宅費高騰と生活コストの上昇という共通の構造的問題が横たわっている。スペインではペドロ・サンチェス首相が10月5日、住宅対策法案の議会否決を受けて11月29日の前倒し総選挙を宣言した。米国では11月3日の中間選挙を前に、生活費、イラン戦争、移民、人工知能が主要争点として浮上し、トランプ大統領の支持率が歴史的な低水準に沈む中、民主党が多数派奪還を掲げている。両国に加え、リビアでも教師ストライキが生活費危機と連動して拡大しており、住宅・教育・エネルギーのコスト上昇が世界的に選挙と社会運動を再編する構図が浮かび上がっている。
スペインの住宅危機は2008年の金融危機以降、長年にわたり蓄積してきた。過去10年間で平均家賃はほぼ倍増し、住宅価格は約90%上昇した一方、賃金は30%しか伸びていない。18歳から34歳のスペイン人の69%が親と同居しており、この比率はクロアチアに次いでEU内で最悪である。危機の引き金となったのは、マドリッドで87歳のマリカルメン・アバスカルが家賃を月額500ユーロから2650ユーロに三倍化され、70年住んだ自宅からストレッチャーで搬出された事件である。この映像が全国に流れたことで、マドリッド、バレンシア、バルセロナ等で数万人規模の抗議デモが発生した。労働組合CC OOとUGTは、選挙前に24時間のゼネストを実施する方針を固め、CGTもこれに同調した。サントバンダー銀行のエクトル・グリシCEOは「需要を制限しても危機は解決しない。供給を拡大する以外に持続可能な解決方法はない」と述べ、供給側からの対策を主張した。マドリッド州首相イサベル・ディアス・アユソは前倒し選挙を「スペインにとって特別な朝」だと歓迎し、選挙が「共産主義か自由か」の戦いだと位置づけた。
米国の中間選挙では、生活費が最大の争点となっている。イプソス/ロイター調査では、有権者のほぼ半数が生活費を最優先課題と認識している。トランプ大統領は2024年の大統領選でバイデン前大統領のインフレ対策を批判して当選したが、ホワイトハウス復帰から約2年が経過した現在も住宅・食料・エネルギー価格の上昇を抑制できていない。対イラン戦争は、トランプとイスラエルが共同で開始したもので、当初は支持40%対反対49%であったが、現在では支持33%対反対57%まで支持が低下している。イランによるホルムズ海峡封鎖が石油価格を押し上げたことも支持率低下の一因である。移民問題では、フォックス・ニュース調査でトランプの対応を「支持」が43%、「不支持」が56%であり、2024年と比べて民主党への信頼が上回った。人工知能では、データセンターの急増による電力消費と電気料金上昇が住民の不安を招いている。
各メディアの報道には明確な論調の差が見られる。アルゼンチンのメディアは、米国中間選挙を「生活費」「イラン戦争」「移民」「AI」という四つの軸で整理し、中間選挙を「ホワイトハウスの住人へのレファレンダム」と位置づけた。スペインのエル・パイス紙は、住宅問題の歴史的経緯と労働組合の戦略的対応に紙面の大部分を割き、CC OO書記長ウナイ・ソルドが「議会での閉塞は最も脆弱な人々に最も大きな被害を与える」と述べた点を強調した。欧州のPOLITICOは、スペインの選挙を「EU内で最後の左派政権の一つ」の存続問題として位置づけ、Voxの躍進と極右の欧州全体での伸長を懸念した。米国のNPRとAP通信は、サンチェスの政治的計算と汚職スキャンダル、セウタの移民危機に焦点を当てた。イスラエルのタイムズ・オブ・イスラエル紙は、サンチェスを「イスラエル批判の急先鋒」と特徴づけ、対イラン戦争への批判的立場を前面に出した。カナダのCBCは、サンチェスの「進歩的リーダー」としての国際的評価と、国防費GDP比5%引き上げ要求への拒否に言及した。リビアのアルジャジーラ紙は、教師ストライキと生活費危機の連動を報じ、教育予算の91%が人件費に充当される構造の歪みを指摘した。一致して報じられている根幹の事実認識は、住宅・教育・エネルギーのコスト上昇が有権者の投票行動を左右する力を持っているという点である。一方、対立軸として、供給側からの解決を主張するグリシやアユソの論調と、需要側からの介入を要求する労働組合・賃借人組合の論調が対立している。
これらの選挙と社会運動は、単なる政権交代の是非にとどまらず、住宅と生活コストが政治の中心軸を再編する構造転換を示している。スペインでは、世論調査で人民党が約34%、社会労働党が約26%、極右Voxが約18%とされ、Voxを巻き込んだ連立政権が成立すれば、フランコ独裁後の民主化以来初めて極右政党が中央政府に参入する。米国では、トランプの支持率が歴史的な低水準にある中、民主党が下院で多数派を奪還すれば、トランプとその周辺に対する複数の調査が開始される可能性がある。リビアでは、教師ストライキが全国規模のゼネストに発展する可能性を孕んでおり、教育予算の構造的問題が政治的膠着と相まって国家の安定を揺るがしかねない。三つの事例に共通するのは、生活コストの上昇が中道政治の基盤を侵食し、極右と極左の双方が「生活費の責任」を既存勢力に転嫁する政治的機会を得ているという構図である。