米国とイランの戦闘が激化する中、エネルギー市場は大きく揺れ動いている。国際通貨基金(IMF)は、イギリス経済が先進国の中で最も深刻な影響を受けると予測し、オーストラリアの大規模水素プロジェクトの資金調達難航、そしてマレーシアの太陽光発電企業が需要急増に対応すべく供給体制の加速を図るなど、各国で異なる対応が見られる。
イギリスへの影響とIMFの見通し
ロンドン発のIMFの最新報告書『World Economic Outlook』によれば、イランとの戦争がエネルギー価格を押し上げたことにより、英国の2023年経済成長率予測は0.8%に下方修正された。これは、戦争によるエネルギーショック、金利引き下げペースの鈍化、そしてエネルギー価格上昇が来年まで続くとの見通しが背景にある。インフレ率は一時的に約4%に達する見込みだが、2027年末までにイングランド銀行の目標である2%に戻ると予測されている。
さらに、英国自動車クラブ(ACB)のデータは、米伊ラン間の一時的な停戦が原油価格の下落をもたらし、結果として卸売段階での燃料コストが低減したことを示している。ガソリンはリッターあたり約158ペンス、ディーゼルは約192ペンスと、戦争前の水準よりは高いものの、月初めと比べて価格は低下傾向にある。
オーストラリアの水素プロジェクト資金調達の課題
オーストラリア西部で計画されている1000億ドル規模のグリーンエネルギーハブ「West Australian Green Energy Hub(WGEH)」を手掛けるInterContinental Energyは、シンガポールの政府系投資会社GICや英国BPからの出資を受けているが、プロジェクトの進捗や資金調達状況の詳細を公表していない。創業者でエネルギー業界のベテラン、アレックス・タナック氏は、同社が太陽光エネルギー輸出を巡る米国の巨額投資計画「SunCable」よりも先行する水素インフラ構想を推進していると述べている。
マレーシアの太陽光需要急増と供給体制の強化
マレーシア最大手の太陽光発電企業Solarvest Holdingsは、イラン戦争による化石燃料価格の上昇を背景に、再生可能エネルギーへの需要が急拡大していると発表した。同社は2026年までに約1.3ギガワット、2028年までにさらに5ギガワットの太陽光容量を追加する計画だ。現在、同社はプロジェクトの納期を従来の18〜24か月から12〜16か月に短縮すべく、規制当局との協議を進めている。
また、太陽光パネルとバッテリーの価格は安定または低下傾向にあり、特に中国からの供給路が戦争の直接的影響を受けていないことが価格安定に寄与している。パネルは1ワットあたり約11米セント、バッテリーは1キロワット時あたり約100米ドルで、これは中国国内価格(60〜80米ドル)に近づきつつある。
マレーシア副首相ファディラ・ユソフ氏は、同国が2025年に再生可能エネルギー容量12ギガワットを達成したと述べ、データセンターや半導体産業がエネルギーコスト上昇を背景に太陽光導入を加速させていることを指摘した。
今後の見通しと国際的影響
イラン戦争がエネルギー市場に与える波紋は、先進国のインフレ圧力や成長見通しに影響を及ぼすだけでなく、オーストラリアのような新興エネルギーインフラへの投資環境や、マレーシアの再生可能エネルギー需要の急拡大といった地域的な変化も引き起こしている。エネルギー価格の変動が続く中、各国は資金調達や規制緩和、供給チェーンの安定化といった対策を急ピッチで進めており、これらの動向が今後数年間のグローバルエネルギー構造に大きな影響を与えることが予想され。