カナダ中西部で発生した800件以上の山火事による大規模な煙が、北米の気象パターンを大きく変えつつある。米気象庁や環境保護庁(EPA)のデータによると、ミネソタ州からメリーランド州にかけて広がる中西部および北東部で、大気質が「危険」レベルに達している。専門家は、異常な高温と乾燥した気候が重なり、煙と熱波が同時に襲う複合気候イベントが新たな常态になりつつあると警告する。この危機は単なる環境事象にとどまらず、米国内の政治的対立や国際的なスポーツ行事、公衆衛生システムに深刻な影響を及ぼしている。
大気質モニタリング企業IQAirのデータによれば、デトロイトは汚染指数600を記録し、世界最悪の大気汚染都市となった。シカゴやトロント、ニューヨークも上位を占め、総人口6400万人以上の米国民が影響を受けている。煙はオンタリオ州の111件の制御不能な火災から発生し、風下へ流れてミシガン、ウィスコンシン、オハイオ、ペンシルベニア、ニューヨーク州まで広がった。ニューヨーク市ではズーラン・ママンダニ市長が危険な熱と不健康な空気を警告し、図書館や警察署、消防署でKN95マスクの配布を開始した。ニューヨーク州のキャシー・ホーチャル知事もN95マスク10万個以上の配布を指示している。
健康面では、高温と煙が同時に人体に負担をかける複合災害が懸念されている。サンディエゴ大学のタリック・ベンマルフニア教授は、体が温度調節と炎症防御の二つの戦いを同時に余儀なくされ、心臓病や喘息患者への致命的なリスクが高まると指摘する。UCLAのデービッド・アイゼンマン医師も、煙に含まれる微粒子が血流に侵入し、心筋梗塞や脳卒中、呼吸器疾患の増加を引き起こすと警告する。公衆衛生当局はエアコン完備の冷却センターの活用を促しているが、機関間の調整不足や空調フィルター設置の遅れが課題となっている。
環境危機は国境を越えた政治的摩擦も引き起こしている。米上院議員バーニー・モレノ氏ら共和党議員団は、カナダ政府の火災管理不備を非難し、対策を課す法案の推進を表明した。一方、スペインではアラゴン州で40度近い熱波を背景に大規模山火事が発生し、軍特殊緊急部隊(UME)が消火活動に当たっている。また、ニュージャージー州メトラライフ・スタジアムで週末に開催予定のスペイン対アルゼンチンW杯決勝戦では、煙による視界不良や大気汚染が懸念されているが、週末の降雨により状況改善の見込みも示唆されている。
環境科学者らは、地球温暖化が乾燥地帯を拡大させ、山火事の頻度と強度を記録的な水準に高めていると分析する。コロンビア大学のダン・ウェスターヴェルト准教授は、この種の煙が年年発生するようになるとの見解を示している。公衆衛生システムと気象予測の統合、そして国際的な気候変動対策の強化が、今後増加する複合災害への備えとして急務となっている。