英国の国内治安機関MI5のケン・マッカラム長官は2026年10月13日、ロンドンのMI5本部で年次脅威演説を行い、イラン、ロシア、人工知能(AI)、テロリズムを主要な脅威として列挙した。同長官はイランが英国国内で軍事施設のような「より困難な標的」への攻撃を志向していると述べ、9月27日に発覚した米軍運用のRAFフェアフォード空軍基地をめぐる疑惑の計画は「唯一の事例ではない」と強調した。同基地では米国のB-1爆撃機がイラン攻撃に使用されており、事件後に米国は爆撃機を撤退させた。英国のアンディ・バーナム首相は10月12日、この計画がイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)によって「ほぼ確実に」指揮されたと議会で述べた。
マッカラム長官によれば、過去1年間にイラン関連の作戦で英国では50人以上が逮捕された。多くはユダヤ人コミュニティを標的にしたもので、イランは英国国内で反体制派イラン人、イランのメディア機関、イスラエルの利益、そして軍事施設へと標的を拡大している。ロシアについては「第一の侵略者」と呼び、ウクライナ侵攻以降に約1000人の外交官が追放されたことでロシアの能力は低下し、犯罪組織や代理主体に依存していると指摘した。AIについては、テロリストがバイオ兵器や新たな病原体を開発するために悪用されることを最大の懸念として挙げ、「人類の歴史は我々より賢い主体に直面した経験を持たない」と述べた。MI5は新たにAI脅威評価センター(AITAC)を設置した。
報道の論調は地域によって焦点が異なる。英国のBBCは、ロシアによる2016年のEU離脱(ブレグジット)国民投票への干渉をめぐり、マッカラム長官が「干渉の試み」と「結果の転覆」を区別し、ロシアのトロールを「10フィートの巨人のように見せる」ことに慎重な姿勢を示した点を前面に押し出した。スペインのエル・パイスとアルゼンチンのクラリンは、フェアフォード事件の詳細、すなわち9月27日に住民が避難し、3台の車両からガソリンが見つかり爆発物は見つからなかったこと、逮捕された7人の男たちが保釈されたこと、トランプ大統領が「自分なら釈放しなかった」と不満を述べたことを詳述した。ドイツのDWは、バーナム首相の「断固たる対応」との言明や、英国がイラン人2人(IRGC対諜報作戦責任者のルーホッラー・バズガンディ容疑者と、ジンダシュティ犯罪ネットワークの仲介役とされるシャフラム・アリ・レザ・タマルザデ・ジャッキ容疑者)に制裁を科した点を強調した。
一方、カタールのアルジャジーラは、イラン外務省が英国の主張を「醜い陰謀」「不器用な偽旗作戦」と非難し、証拠が不十分だと反論した点を大きく扱った。イランの国営報道機関IRNAは、最近の一連の疑惑事件をイランを地域の不安定要因に仕立てる「協調的な非難の波」と位置づけた。中国のSCMPは、マッカラム長官が英国が「国家安全保障の新時代」に直面していると述べ、9.11同時多発テロに匹敵する転換点にあると主張した点を強調した。インドのタイムズ・オブ・インディアは、ロシアが通常戦争の一歩手前の戦術を用い、ドイツの空港での貨物機へのドローン攻撃やポーランドのエネルギーインフラへのサイバー攻撃を行ったと報じた点を前面に出した。
各国メディアが一致する事実認識は、マッカラム長官がイランとロシアを主要な国家的脅威と位置づけ、AIの悪用、とりわけバイオ兵器のリスクを重大視したことである。一方で対立軸は明確である。英国、ドイツ、スペインなどのメディアはイランがフェアフォード事件の背後にいるという英国政府の主張を前提に報道を進めた。これに対しイランとカタールのメディアは、証拠が示されていないとしてこれを「偽旗作戦」と退け、米国とイスラエルによる2月28日の対イラン攻撃を戦争の起点として位置づけた。AIの脅威については、350人を超える科学者がAI安全対策の強化を求める公開書簡を発表し、AIモデルによるハッキング事案を踏まえて国際的な監視機関の設置を提言した。英国政府は2027年にAIに関する新規則を法制化する計画である。
今回の演説は、英国が国家脅威への対応に冷戦期を上回る資源を投入していることを示した。マッカラム長官は国家による脅威が過去10年間で4倍に増えたと述べ、ロシア、イラン、中国を主な脅威として挙げた。トランプ米大統領は10月12日、中国とロシアがイランを支援しているとは考えないと述べ、「彼らは失うものが多すぎる」と主張した。中東では米国とイスラエルが2月28日にイランへの攻撃を開始して以来、紛争が続いている。英国政府はイラン大使を呼び出し、自国領土への攻撃を容認しないと伝えた。英国は7月にIRGCを「テロ組織」に指定し、10月には32か国がイランの暴力攻撃や致死的事案、放火、妨害、サイバー攻撃を非難する共同声明を発表した。